SPACE FACTORY 2007

シリーズ4『夢の浮橋』~源氏物語より~
巻の一「誇り高き女 ― 六条御息所 ―」version2
~生霊と現身の間で~

鉦の音に誘われ、つい浮かれ出た賀茂の祭見物の人ごみの中で、光源氏の正妻葵の上の輿と争い事を起こし、ひどく惨めな思いを味わった六条御息所は、やがて生霊となって己も知らぬ間に彷徨い出て、産褥の床にある葵の上を嫉妬の炎で取り殺してしまいます。

それに気づいた六条御息所は、己の業の深さに愕然とし、ついに光源氏との別れを決意します。そして、斎宮に命ぜられた娘とともに伊勢へ下ることにし、精進潔斎のため都を離れるのでした。

2004年に都内四谷"コア石響"で上演した巻の一「誇り高き女-六条御息所-」の改訂版を、横浜中山"なごみ邸"にて上演。

会場
横浜 中山/なごみ邸

公演日時
2007年11月17日(土)/18日(日)
15:45開場、16:00開演

STAFF
池上 眞吾 [邦楽弦楽器]
木村 俊介 [津軽三味線・笛]
金山 典世 [パーカッション]
花柳 ゆかし [日本舞踊]
西田 幸雄 [ナビゲーター]
黒川 芳朱 [映像]
おかもと りよ [アートディレクター]
広瀬 友美 [DMデザイン]

概要
 「源氏物語」には様々なタイプの魅力的な女性が登場しますが、中でもひときわ気品に溢れ、才気と美貌を兼ね備え、社交的で機知に富み、もちろん身分にも申し分のない高貴な女性として描かれているのが六条御息所でしょう。

 彼女は、夫であった前の春宮(皇太子)が若くしてこの世を去った後、光源氏の恋人となりました。光源氏は、ほんのちょっとしたやり取りの折にも滲み出る御息所の教養の深さやセンスの良さに惹かれ、彼女を類まれなる素晴らしい女性と感じていました。しかし、彼女が源氏より何歳か年上であることや、前の皇太子妃であったという身分の高さからくる堅苦しさゆえか、二人はお互いに今一つ、心を開いて打ち解け合うことができず、光源氏は彼女との間柄を公然のものとすることを躊躇しているのでした。

 六条御息所はそんな源氏のはっきりしない態度に、いっそのこと彼との不安定な関係を断ち切ってしまおうとも思うのですが、光源氏の絶大なる魅力には抗いようもなく、思慕の念ばかりが日増しに深くなってゆくことに、悶々とした日々を送っています。

 光源氏にはすでに親の勧めに従って結婚した葵の上という正妻がおり、折しも、十年目にしてようやく初めての子供を身篭っていました。六条御息所は、賀茂の祭見物の場所取りをめぐって起きた葵の上一行との車争いで誇りをひどく傷つけられたことをきっかけに、正妻である葵の上に対して強い嫉妬を覚えるようになります。そして、その妬み心は彼女の体から抜け出て生霊となり、産褥に苦しむ葵の上に取り憑き、とうとう取り殺してしまうのです。

 自身の意識の及ばぬ処で、自らの生霊が葵の上を死に追いやったことを知った六条御息所は、己の業の深さに愕然とし、ついに光源氏との別れを決意します。そして、斎宮に命ぜられた娘とともに伊勢へ下ることにし、精進潔斎のため都を離れ、嵯峨野の野宮へと移り住むのでした。


 六条御息所は宮廷文化サロンの中心的な存在で、誰もが認める理知的な貴婦人ですが、一方では、心の内に自分でもどうにも抑えられないほどの激しい嫉妬の炎をたぎらせているのです。彼女の意識の世界はあくまでも理性と教養に支配されており、恐ろしいほどの嫉妬の衝動は無意識の底に深く沈んでいる。六条御息所のこのような極端な人格の二重構造に、読者はいつの時代も変わらぬ人間の心の深淵を覗く思いを抱くのです。


 千年以上も昔に、東洋の小さな島国の、それもごく限られた貴族社会を描いた「源氏物語」が、21世紀の今も、我が国だけでなく世界的に高い評価を受け読み継がれている由縁は、ただ華やかに見える平安貴族の恋愛バトルの物語の陰に、様々な人間の普遍の姿がじつに巧みに鮮やかに描き出されているところにあるのでしょう。

Previous
Previous

SPACE FACTORY 2008『誇り高き女-六条御息所- ~生霊(いきりょう)と現身(うつしみ)の間(はざま)で~』

Next
Next

SPACE FACTORY 2007 シリーズ4『夢の浮橋』~源氏物語より~ 巻の三「悩める妻と悩ませる妻 ― 紫の上と女三の宮 ―」