SPACE FACTORY 1997

シリーズ1『額田女王(ぬかたのおおきみ)』
第二章「心淵を見つめて ぬ か た ━紫のにほへる妹」

会場
横浜STビルB1「STスポット」

公演
1997年5月9日(金)15:00/19:30開演

STAFF
森 真弓 [ライト&サウンドアート]
花柳 ゆかし [舞踊]
池上 眞吾 [箏・三味線・胡弓]
大喜多 史朗 [三味線・パーカッション]

概要
あかねさす紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖振る (額田女王)
紫のにほへる妹を憎くあらば人妻ゆえに我恋めやも (大海人皇人)

 万葉集管一に撰ばれている大海人皇人(後の天武天皇)とのこの贈答歌によって、額田女王は古代日本を代表する女性歌人としての名を欲しいままにしていると言っても過言ではないだろう。この歌は、野遊びで偶然行き会った昔の夫の思わせぶりな素振りに、女がまんざらでもない様子で応え、男も今は兄の思われ人となっている女にちょっと複雑な思いで声をかける、というものである。
 額田女王は神に仕える職に在りながら計らずも二人の男、それも日本の礎を築いた英雄とされる天智・天武の二人の天皇の寵愛を受けた。母系社会の風習が色濃く残るこの時代にあってもこれはかなり特異なケースだったと思われる。しかも、それは必ずしも額田自身が望んだことではなく、避け難い運命だった。それゆえ彼女は結局、終生二人のどちらにも自分の人生を委ねることなく己の信念に従い、賢くしたたかに、時には自由奔放に情熱的に、激動の時代を生き抜いた。
 彼女のこうした姿を、“与えられる”ことに飽き、自らの手で己の人生を掴み取ろうとし始めている現代の女たちの姿に重ね合わせる時、その力強い生き様は確かな意味を持ってくるのである。

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SPACE FACTORY 1997 シリーズ1『額田女王(ぬかたのおおきみ)』終章「ヌカタ・ぬかた・額田」

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SPACE FACTORY 1997 シリーズ1 『額田女王(ぬかたのおおきみ)』 第一章「澄んだ光の中で ヌ カ タ ━祀りの女」